日本語での会話は問題ない。仕事の指示も通る。それなのに、日報を入力するところだけ極端に時間がかかる——日本語を母語としない方と働いている職場や、日本語学校の現場から、こうしたご相談をいただきます。

たいていの場合、まわりの誰かが教えようとします。ところが、これがうまくいきません。教わる側の問題ではなく、教える側が思わぬところでつまずくためです。

現場でよく起きるのが、次の3つです。

■つまずき1|毎回つきっきりでは、時間が持たない

日本語入力は、一度説明して終わりにはなりません。実際に打ってもらい、止まったところを直し、また打ってもらう。この繰り返しが必要です。

しかし教える側にも自分の仕事があります。最初の1時間は付き合えても、翌日も、その翌日も、となると続きません。

そして中途半端に止まると、本人は自己流のまま打ち続けることになります。一度クセがついてしまうと、直すのに余計な時間がかかります。

■つまずき2|無意識に打っているので、説明できない

「FUと HU はどちらを打てばいいですか」
「『おはよ』は、おはようですか、おはよおですか。どうして『う』なのですか」

こう聞かれて、すぐに答えられる方は多くありません。日本人の多くはローマ字入力を、誰かに体系的に習ったわけではなく、使いながら身につけています。手は覚えていても、言葉にはできない。

その場で自分のキーボードを打って確かめる。こうしたやりとりが続くと、教える側にも負担が積み重なります。答えに詰まる場面が増えるほど、教える側もドキッとすることがストレスになっていきます。

■つまずき3|何から教えればいいか、順番が決まらない

思いついた順に教えると、抜けが出ます。都度対応すると、同じことを質問されます。

漢字変換を教えたあとで、まだ小さい文字が打てないことに気づく。カタカナの出し方を教えたのに、そもそもひらがなが反射で打てていない。前の段階が固まらないまま次へ進むと、どこで止まっているのかが本人にもわからなくなります。

本来は、こういう順序があります。

  1. ひらがなをローマ字で打つ(あいうえお〜わをん)
  2. 濁点・半濁点
  3. 伸ばす音、小さい文字
  4. カタカナへの変換
  5. 漢字への変換と、候補の選び方

一つずつ確認しながら進めれば確実ですが、この順番を業務の合間に組み立てるのは、現実的ではありません。

■結局いちばん足りないのは、練習の量

3つに共通しているのは、どれも「説明」の問題ではないということです。

日本語入力でいちばん時間がかかるのは、知識を得るところではありません。ひらがなを見て、指が自然に動くようになるまで。漢字の候補から正しいものを迷わず選べるようになるまで。ここには、まとまった反復が要ります。

説明は5分で終わっても、身につくには繰り返しが必要です。そして、この繰り返しに付き合い続けることが、現場ではいちばん難しい。

逆に言えば、教える側が本当に必要とされるのは、説明の部分だけです。反復は、教材に任せられます。

■教材に任せられること、任せられないこと

教材が向いているのは、順番が決まっていて、繰り返しが要るところです。ひらがなから漢字変換まで、決まった順序で進み、何度でもやり直せる。教える側の時間を使いません。

一方で、実際の業務でどんな文章を入力するのか、どの言葉を単語登録しておくと効率がいいのか。こうした部分は、現場を知っている方にしかわかりません。

すべてを教えようとすると続きませんが、教材と役割を分ければ、無理なく回るようになります。

■WordやExcelの前に、入力でつまずく

パソカレッジでも、日本語を母語としない方がWordやExcelの講座を受講される機会が増えてきました。

そこで見えてきたのが、操作そのものは問題なくできる方が多い、ということです。リボンの位置も、クリックの手順も、説明すればすぐに覚えます。壁になるのは、そのあとの日本語入力でした。

英語なら速く打てる方でも、日本語になると手が止まります。日本語は「か→KA」「し→SI」のように、ひらがな1文字ごとに母音まで打つ必要があります。英語のタイピングとはリズムが違うため、慣れるまでは戸惑うのです。

入力は、知識ではなく慣れです。そしてここが固まっていないと、WordでもExcelでも、文字を入れるところで時間を使ってしまいます。関数の説明を聞く前に、セルに入力するだけで疲れてしまう。

遠回りに見えても、日本語入力を先に固めるほうが、結果として早く身につきます。入力ができるようになってから次に進めば、その後の習得スピードが変わります。

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